未管理著作物裁定制度とは?
権利者が見つからない素材の扱いは、2026年4月からどう変わったか
- 1探す探索
作品の周辺、権利者のものと思われるサイト、分野横断権利情報検索システムなどで、管理団体・利用ルール・連絡先の有無を調べる
- 2連絡する意思確認
連絡先だけが分かる場合は、そこへ連絡。14日間応答がなければ、制度の対象になり得る
- 3申請する要件確認
登録確認機関(公益社団法人著作権情報センター)が、要件を満たしているかを確認する
- 4裁定文化庁長官
文化庁長官が裁定を行う
- 5補償金を払う補償金
通常の使用料に相当する額の補償金を、指定補償金管理機関(同センター)に支払う
- 6使う最長3年
裁定で認められた範囲と期間で利用。権利者が現れたら、権利者は補償金を受け取れ、期間内なら取消しを請求できる
※お断り※
このページは、権利処理に馴染みのない方に「だいたいこういうこと」を掴んでいただくため、文化庁の公開資料をもとに、現場の実務者としての見方を加えたものです。制度の正確な内容や、ご自身の案件で使えるかどうかは、必ず文化庁の資料と相談窓口でご確認ください。補償金の額や手数料、申請から裁定までの日数は、このページでは扱いません。
何が変わった? 「いない」のではなく「返事がない」
権利者が見つからない素材を使うための制度は、前からありました。「著作権者不明等の場合の裁定制度」で、権利者が誰か分からない、どこにいるか分からない、亡くなっていて相続人が分からない、というときのものです。これは今も動いています。
ところが現場で本当に多いのは、そのどれでもないケースでした。クレジットに名前はある。検索すればサイトも出てくる。問い合わせフォームから送った。そして、返事が来ない。「分からない」わけではないので旧制度は使いにくく、かといって勝手に使うわけにもいかない。配信の企画会議で「あの写真、まだ返事待ちです」と3回言った経験のある方は、少なくないはずです。
2026年4月に始まった未管理著作物裁定制度は、この「権利者はいるらしいが、使ってよいかの意思が確認できない」素材のための新しい入口です。文化庁の解説に挙がっている例は、休眠会社が権利を持つ古いゲームソフトの復刻、ブログで見つけた風景写真の電子書籍への掲載、相続で権利が複数人に分かれた絵画の掲載。どれも「探せば名前は出るが、答えが返ってこない」場面です。
対象になるもの、ならないもの。分かれ目は「意思表示があるか」
文化庁の解説を、現場の言葉に直すとこうなります。
対象になり得る
- 公表されていて、管理団体に管理されておらず、利用ルールも問合せ先も示されていない
- 連絡先だけは分かる。連絡したが、14日間応答がない
対象外
- 「利用はこの条件で」など、利用ルールが書かれている → そのルールに従って使う
- 「利用のご相談はこちら」と、協議の意思と連絡先が示されている → 連絡して許諾を得る
- 管理団体(著作権等管理事業者)が管理している → 団体に申請する
- 権利者が出版物を回収するなど、利用をやめようとしている
見ての通り、権利者の側が「何かひとこと書いているか」で運命が分かれます。「相談はこちら」の一行があるだけで対象外。逆に、何も書いていない作品は、連絡しても14日間返事がなければ対象になり得ます。14日というのは、年末年始やお盆をまたぐとあっという間です。
調べる場所として文化庁が挙げているのは、作品の周辺(クレジットや奥付)、権利者のものと思われるウェブサイト、2026年2月に運用が始まった分野横断権利情報検索システム、そして個人のクリエイターが自分の作品の扱いを登録しておける個人クリエイター等権利情報登録システムです。調べて「ルールや窓口がある」と分かれば、この制度ではなく、そのルールや窓口に従うことになります。
ちょっと脱線: 文化庁長官が、全部読むの?
流れの図に「文化庁長官が裁定を行う」とあるのを見て、長官が申請書を一通ずつ読む姿を想像した方もいるかもしれません。そうではありません。役所の決定には組織の長の名前が付くのが決まりで、特許が特許庁長官の名前で出るのと同じです。実際の要件確認は登録確認機関(公益社団法人著作権情報センター)が担い、補償金を受け取るのも指定補償金管理機関(同じセンター)です。長官は「決定の名義」、センターは「窓口と実務」、と覚えておけば十分です。
現場の見立て①: 番組の権利は束。裁定でほどけるのは、1本か2本
ここからは、放送番組や映像コンテンツを扱う側から見た話です。
番組は、出演者・原作・脚本・楽曲・音源・写真・借りた素材と、たくさんの権利の束でできています。裁定制度がほどいてくれるのは、そのうち「意思確認ができない権利者」の分だけです。古い番組の中の1枚の写真が裁定で使えるようになっても、出演者や楽曲の許諾は、これまでどおり必要です。楽曲の多くは管理団体が管理しているので、そもそも裁定の対象ではありません。
現場の見立て②: 3年で切れる。長期の配信には、短い
裁定で認められる利用期間は、最長3年です。1回きりの出版や展示には十分でも、何年も続ける配信や、再放送のたびに使う素材には、短い期間です。切れたら、改めて申請するか、その間に権利者を探し当てて通常の許諾に切り替えることになります。
ここで効いてくるのが、どこを調べて、誰に、いつ連絡して、どう返事がなかったかの記録です。3年後にもう一度ゼロから探すのと、記録を更新するだけで済むのとでは、手間がまったく違います。権利者が後から現れたときも、「ここまで探しました」と日付つきで示せるかどうかで、その後の話し合いの空気が変わります。探した記録は、探した本人の頭の中にしか残らない。これが権利処理で一番よくある「資産の消え方」です。
現場の見立て③: 探索の記録は、権利台帳に1列足せば済む
記録を残す場所は、新しいファイルを作るより、権利台帳に列を足すのが現実的です。台帳の「経緯・根拠」の隣に、探索ログを持たせます。架空の例です。
| 素材 | 調べた場所・日付 | 連絡先と連絡日 | 応答期限 | 結果 | 次の手 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第3話の風景写真 | クレジット、検索システム(4/10)、撮影者のサイト(4/10) | サイトのフォーム(4/11) | 4/25 | 応答なし | 裁定の申請を検討 |
| 第5話の挿入歌 | 検索システム(4/10) | 管理団体あり | — | 対象外 | 団体に申請 |
| オープニングのイラスト | クレジット、登録システム(4/12) | 登録あり、「相談可」 | — | 対象外 | 連絡して許諾 |
この表があると、「どれが裁定の候補で、どれは通常の許諾か」が一目で分かり、申請に必要な「権利者の意思確認をした」という事実も日付つきで残ります。3年後の自分と、異動してきた後任への、いちばん安い保険です。
権利者の側から見ると: 一行書いておくだけで、守れる
この制度には、使う側だけでなく、権利を持つ側の話もあります。自分の作品に利用ルールや問合せ先を示しておけば、裁定の対象にはなりません。逆に、何も示していない作品は、連絡がつかないまま裁定で使われることがあります。文化庁の個人クリエイター等権利情報登録システムは、そのための意思表示を登録する仕組みです。「相談はこちら」の一行が、思いのほか強い。
利用されていると分かった場合、権利者は補償金を受け取れ、利用期間内なら裁定の取消しを請求できます。文化庁の解説では、気づかなかった有償の利用ニーズを知るきっかけになる、という見方も示されています。
ヨリトキにできること
- 番組や作品に含まれる権利の洗い出し
- どの権利が裁定の候補で、どれは通常の許諾が要るかの仕分け
- 探索と意思確認の実務と、その記録
- 申請に向けた資料の整理
- 権利台帳への探索ログの組み込み
関連する用語
- 権利処理 — 権利を洗い出し、許諾を得て、条件を決め、支払い、記録する一連の作業。裁定制度は、その「許諾を得る」工程の例外的な入口。用語ページ
- 権利台帳 — 作品ごとに、誰が・何の権利を・どんな条件で、を一覧にしたもの。探索ログの置き場。用語ページ
- 二次使用料 — 二次利用のときに権利者へ払う対価。裁定の補償金は「通常の使用料に相当する額」とされている。用語ページ
このページに関するよくある質問
従来の「著作権者不明等の場合の裁定制度」と、何が違いますか?
従来の制度は、権利者が誰か分からない、所在が分からない、相続人が分からない、といった場合に使う制度で、今も運用されています。新しい未管理著作物裁定制度は、権利者が誰かは分かっていても「使ってよいかどうかの意思」が確認できない場合に使えるのが特徴で、利用できる期間は最長3年に限られます。どちらも権利者の連絡先が明らかで意思確認ができる場合は使えません。どちらの制度を使うかは、文化庁の案内にある著作権情報センターの相談窓口で相談できます。
裁定で使い始めたあとに、権利者が出てきたらどうなりますか?
権利者は、自分の著作物等が裁定で利用されていると分かった場合、支払われた補償金を受け取れます。また、裁定で認められた利用期間内であれば、裁定の取消しを請求できます。利用する側から見ると、裁定は「権利者が現れるまでの仮の許可」に近いものです。利用を続けたい場合は、現れた権利者と改めて条件を話し合うことになるので、申請までの探索と連絡の記録を残しておくことが、その話し合いの土台になります。
放送局や制作会社も、この制度を使えますか?
制度は利用者の業種を限定していません。文化庁の解説でも、休眠している会社のゲームソフトを復刻する例や、連絡の取れない写真を電子書籍に載せる例が挙げられています。ただし番組は、出演者・楽曲・写真・脚本など多くの権利の束です。裁定で解けるのは、そのうち意思確認ができない権利者の分だけで、ほかの権利者の許諾は従来どおり必要です。また、管理団体に管理されている権利や、利用ルール・問合せ先が示されている権利は対象になりません。
まとめ
- 未管理著作物裁定制度=権利者の「意思が確認できない」著作物等を、裁定と補償金で最長3年使えるようにする制度。2026年4月運用開始
- 対象は、管理団体に管理されず、利用ルールも問合せ先も示されていない公表済みの著作物等。連絡先だけ分かる場合は、連絡して14日間応答がなければ対象になり得る
- 番組の権利は束。裁定でほどけるのは1本か2本で、ほかの権利者の許諾は従来どおり必要
- 3年で切れるので、探索と意思確認の記録を権利台帳に残しておく。それが申請の土台にも、権利者が現れたときの話し合いの土台にもなる
ヨリトキは、権利処理の実務を業務委託で引き受けながら、その記録を権利台帳として整えます。「古い番組の素材で、連絡がつかない権利者がいる」「どれが裁定の対象になるのか仕分けたい」という段階でご相談ください。くわしくはサービス内容へ。
参考ページ(すべて文化庁)
- 文化庁「未管理著作物裁定制度」制度解説ページ(対象の要件、14日間の扱い、登録確認機関・指定補償金管理機関、裁定の手引き)
- 文化庁広報誌「ぶんかる」 未管理著作物裁定制度の紹介(2025年12月24日)(制度の目的、具体例、最長3年、権利者側のメリット)
- 文化庁 報道発表「分野横断権利情報検索システム」「個人クリエイター等権利情報登録システム」の運用開始(2026年2月24日)
- 分野横断権利情報検索システム/個人クリエイター等権利情報登録システム
2026年10月20日時点の情報です。制度の運用や各機関の手続きは変わることがあります。