「この過去作、配信できる?」と聞かれたら。
権利処理の実務で最初にやる6つのこと
- 1権利の束を洗い出す洗い出し
出演者、原作、脚本、楽曲、音源、写真、借りた映像素材、ナレーション。1本の作品に、誰の権利が入っているかを一覧にする
- 2契約書と台帳を探す根拠
権利ごとに、条件が書かれた契約書・覚書・メールの所在を確認。権利台帳があれば、ここが一番早い
- 3条件を読む範囲・期間・原資
配信が許諾の範囲に入っているか、期間は切れていないか、地域と配信の形(有料・広告付き)は、対価は固定か料率か
- 4足りない許諾を仕分ける仕分け
団体に申請すればよいもの、個別に交渉が要るもの、連絡先が分からないもの、条件は決まっているが使う前に確認が要るもの。それぞれ進め方と時間が違う
- 5費用と時間を見積もる見積もり
追加で払う対価、連絡が要る件数、返事待ちの期間。差し替えやカットで減らせる分も合わせて
- 6答えて、記録する回答と台帳
「できる/この条件ならできる/できない」を根拠つきで答え、調べた結果を台帳に残す
※お断り※
このページは、権利処理に馴染みのない方に「現場で何が起きるか」を掴んでいただくためのものです。手順は一般的な流れで、会社や作品によって異なります。例に出てくる作品や条件はすべて架空です。
1. 権利の束を洗い出す: 「1本の番組」は、1つの権利ではない
最初にやるのは、作品の中身を分解することです。1本のコンテンツには、驚くほど多くの権利者がいます。出演者、原作者、脚本家、作詞・作曲、音源、劇中で使った写真、借りた映像、ナレーション。ドラマなら原作と脚本が重く、バラエティなら楽曲と借用素材が多く、ドキュメンタリーなら取材先の写真や映像が効いてきます。
ここを飛ばして「出演者はOKだから配信できる」と答えると、あとで必ず足元をすくわれます。全部を紙に書き出すだけで、「この作品は意外と軽い」「この作品は束が太い」が見えてきます。
2. 契約書と台帳を探す: 一番時間が溶けるところ
権利ごとに、条件が書かれた書類を探します。契約書、覚書、メールでの合意、団体への申請控え。ここで権利台帳があるかないかで、作業の重さがまったく変わります。台帳があれば、作品名で引いて、条件の欄と契約書の保管場所を見るだけです。なければ、当時の担当者の記憶とファイルサーバーの奥を探すことになります。
正直に言うと、過去作の確認で一番時間が溶けるのは、この「探す」工程です。条件を読む時間より、書類にたどり着く時間の方が長い。だからこそ、調べた結果は必ず台帳に残します(工程6)。
3. 条件を読む: 「配信」の一語が入っているか、だけではない
契約書が出てきたら、読むのは4つです。
- 範囲 — 許諾された利用に、配信が含まれているか。放送のみ、放送と番組販売まで、二次利用一式、など書き方はさまざまです。「配信」と書いてあっても、有料配信と広告付き無料配信、国内と海外で扱いが分かれていることがあります
- 期間 — 許諾の期限が切れていないか。切れていれば、更新の交渉が要ります
- 対価 — 固定額で済んでいるのか、配信の売上に対する料率なのか。料率なら、何を原資にするかまで。二次使用料の決まり方は、権利の種類で違います
- 特記 — 「海外は別途相談」「主題歌の差し替え不可」「クレジット表記の指定」「配信の際は事前に連絡」のような一文。ここを見落とすと、配信を始めてから止まります
4. 足りない許諾を仕分ける: 進め方が4通りある
読んだ結果、配信に足りない許諾や、配信の前にやるべき手続きが出てきます。それを、進め方で4つに分けます。
- 団体に申請すればよいもの — 楽曲の著作権など、管理団体が窓口になっているもの。手順が決まっていて、見通しが立ちます
- 個別に話すもの — 出演者の事務所、原作の出版社、音源のレコード会社など。相手ごとに条件が違い、返事待ちの時間が読めません
- 連絡先が分からないもの — 当時の制作会社が解散している、借りた写真の提供者と連絡がつかない、など。2026年4月からは未管理著作物裁定制度という選択肢もありますが、束の一部しか解けず、使える期間も限られます
- 条件は決まっているが、使う前に確認が要るもの — 契約の範囲や期間、対価が決まっていても、「配信する際は事前に連絡すること」「利用のたびに承諾を得ること」のような条件が付いていることがあります。許諾は済んでいるように見えて、配信の前に各所へ確認や連絡をしないと使えません。見落としやすいのは、契約書の末尾や覚書に一行だけ書かれているときです
この仕分けが、次の工程の見積もりの土台になります。2と3が多い作品は時間がかかる作品、4が多い作品は配信の前に連絡の段取りが要る作品です。
5. 費用と時間を見積もる: 「減らす手」も一緒に出す
追加で払う対価、連絡が要る件数、返事待ちの期間をまとめます。このとき、足し算だけでなく「減らす手」も一緒に出すのが実務のコツです。主題歌を差し替えれば音源の許諾が1件減る、借用素材の数秒をカットすれば写真の権利者2人への連絡が要らなくなる、海外を外せば出演者の追加条件が消える。相談してきた側が欲しいのは「できません」ではなく、「この形なら、このくらいでできます」という選択肢です。
6. 答えて、記録する: 答えは3種類、根拠つきで
答えは「できる」「この条件ならできる」「できない」の3種類です。どれにも根拠を添えます。たとえば架空の例でいうと、こうです。
| 答え | 根拠と条件(架空の例) |
|---|---|
| できる | 出演・原作・脚本は二次利用一式で許諾済み、期限内。楽曲は団体管理で申請のみ。借用素材なし |
| この条件ならできる | 主題歌の音源が放送のみの許諾。差し替えるか、レコード会社と追加の条件を詰める。出演者1名は事務所の確認待ち(目安は2週間) |
| できない(今は) | 原作の許諾期限が切れていて、出版社との再契約が先。第3話の写真は提供者と連絡がつかず、カットするか裁定制度の検討が要る |
そして、調べたことを全部、台帳に書き足します。どの契約書の何条に何が書いてあったか、誰にいつ連絡したか、どの素材が引っかかったか。次に同じ作品の話が来たとき、あるいは同じ権利者の別の作品の話が来たとき、工程2が丸ごと省けます。
現場で起きがちな、3つの失敗
- 「放送のときに全部OKをもらったはず」で進めてしまう放送時の契約は放送のための契約で、配信が入っていないことは珍しくありません。特に古い作品ほど、配信という利用形態そのものが契約に想定されていない。契約書を開く前に答えると、あとで止まります
- 音楽を最後に回す放送では包括的に使えていた市販の音源が、配信では別の許諾になる。作詞作曲の著作権と音源の権利は別の系統なので、片方だけ確認して安心してしまう。音楽は束の中でも「配信で性質が変わる権利」なので、最初に見ます
- 借用素材を数えていない出演者と楽曲は確認したのに、劇中の数秒の写真、地図、他社から借りた映像が残っていて、配信直前に見つかる。素材の数が多い作品ほど、工程1の洗い出しを丁寧にやるしかありません
ヨリトキが引き受けているのは、この6工程です
「過去作を配信したいが、何から手を付ければいいか分からない」という段階で構いません。権利の束の洗い出しから、契約書の読み取り、足りない許諾の仕分けと見積もり、そして調べた結果を権利台帳に残すところまで、ひと続きで引き受けます。くわしくはサービス内容へ。
関連する用語
- 権利処理 — 権利を洗い出し、許諾を得て、条件を決め、支払い、記録する一連の作業。用語ページ
- 二次使用料 — 二次利用のときに権利者へ払う対価。固定額と料率。用語ページ
- 権利台帳 — 作品ごとに、誰が・何の権利を・どんな条件で、を一覧にした記録。工程2と6の置き場。用語ページ
- 未管理著作物裁定制度 — 権利者の意思が確認できない著作物等を、裁定と補償金で使えるようにする制度。用語ページ
このページに関するよくある質問
過去作が配信できるかの確認には、どのくらい時間がかかりますか?
作品に含まれる権利の数と、契約書がすぐ出てくるかで大きく変わります。台帳があり契約書の保管場所が分かっている作品なら、条件を読むところまでは早く進みます。台帳がなく、契約書を探すところから始まる作品や、連絡先の分からない権利者がいる作品は、連絡と返事待ちの時間が足されます。最初に「権利の束」を洗い出した時点で、だいたいの見通しをお伝えできます。
全部の許諾がそろわないと、配信できませんか?
そろわない権利の種類によって、選択肢があります。楽曲なら差し替え、写真や映像素材なら該当部分のカットや差し替え、出演者なら該当回を除いた部分配信、といった形です。配信の形(有料か広告付きか、国内か海外か)を変えると、必要な許諾が変わることもあります。「できない」で終わらせず、「この条件ならできる」まで仕分けるのが実務の仕事です。
毎回ゼロから調べないで済む方法はありますか?
権利台帳を作ることです。作品ごとに、誰が・何の権利を・どんな条件で・いつまで、を一覧にしておけば、次に同じ作品や同じ権利者の話が来たときに、契約書を掘り返さずに答えられます。配信の確認で調べた結果を、その都度、台帳に書き足していくのが現実的な始め方です。
まとめ
- 「配信できる?」への答えは即答ではなく、権利の束をほどいて「この条件なら」まで仕分けること
- 6工程=洗い出す、契約書と台帳を探す、条件を読む(範囲・期間・対価・特記)、足りない許諾と事前確認を仕分ける、費用と時間を見積もる、答えて記録する
- 一番時間が溶けるのは「探す」工程。調べた結果を台帳に残せば、次からそこが省ける
- 失敗の型は3つ。放送時の契約で済んだと思う、音楽を後回しにする、借用素材を数えない
参考ページ
- 文化庁 文化審議会著作権分科会 基本問題小委員会 報告(案)(PDF)(過去の放送番組の配信に伴う権利情報の確認と権利処理のコスト)
2026年10月28日時点の情報です。各団体の運用や契約の慣行は変わることがあります。